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その先の “ コモンズ ” を信じて

2020/12/26
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その先の “ コモンズ ” を信じて

今年の3月に生まれて初めて大きな病気をしました。
完治はしていません。治療は続いています。
体と何とか折り合いをつけながら暮らしている状態です。
改めていのちの有限性と真剣に向き合ったとき、
これまでの仕事をまとめておこうという気持ちが湧いてきました。

大江正章(ただあき)さんの遺作となった『有機農業のチカラ』の、
あとがきの一文。

普段は「あとがき」を先に読むことなどないのに、
この本を入手してすぐに「まえがき」と「あとがき」に
目を通した。
病気だとは聞いていたが、読んで「癌」の文字が浮かんだ。
背中のほうからザワザワした震えを覚えたが、
いや、大江さんなら乗り越えるだろうと思い込むことにした。
なんたってフルマラソンを3時間以内で走っていた
アスリートだからね。

12月5日(土)、「日本有機農業学会」の
オンラインでの総会を覗いた際にも(いちおう僕も会員なので)、
稲葉さんと大江さんが病気療養中との報告があり、
またも嫌な予感を覚えた。
それでも信じた。元気に復帰するだろうと。

しかし、、、叶わなかった。

稲葉光圀さんの告別式で、何人かの人と会話したなかで、
大江さんの病気が肺ガンだと知らされた。
「いやぁ、心配だね」なんて言い合って、
その帰りでの訃報、何の言葉も浮かばなかった。。。

いったい、何の試練だろうか。
いや、これはもう、ただ仕方がないことなのだ。
残された者は悲しみに心おきなく浸って、そして
それぞれに思う “ 彼の願い ” を受け止め、生きるしかない。

 

大江さんとの「お別れ」の対面は、
新宿区上落合にある最勝寺で行われた。

 

僕は大江正章という人物を「同志」だと思ってきた。
と書いても、大江さんは許してくれるよね。

同じ大学で同時代に過ごした。
学部も立場も違って知り合うことはなかったが、
間違いなく同じ空気を吸っていた(実は下宿先も近かった)。
当時の学園は内ゲバ(死語?)の時代で、
学生運動は社会の支持を失いつつあったたけれど
(そんなことやってたら就職できないぞ、とよく言われた)、
集会に参加しては議論し、大学当局や政治に怒りをぶつけ、
挫折しては酒を飲んで、また議論していた。
会うことはなかったけれど、
「あの時、お前はあそこにいたのか」みたいな感じだ。

卒業して、ほぼ同時に(だと思う)出版業界に入った。
しかし、わりと近いところにいながら、出会いはなかった。
そして僕は2年足らずで「大地を守る会」に転身し、
出版業界から離れたのだったが、
それから10年後の1992年、大地を守る会の軌跡を辿った
『いのちと暮らしを守る株式会社』(学陽書房刊)が、
大江さんの手によって出版された。

 

その前に、僕は「大地」に入社後しばらくして、
販売のアイテムとして書籍に手を出していた。
街の本屋さんではなかなか手に入らない食や環境に関する本を
選んで提案し、読んでもらいたいと思ったのだ。

当時はアマゾンなどネット通販もなかった時代なので、
その取り組みはまずまずの反応で、
出版社の方々もだんだんと出入りしてくれるようになり、
そんなときに上記の出版もあって、
僕は農文協はじめ何人かと共謀して(社内的にもほぼ独断で)、
『大地を守る出版社の会』というのを立ち上げた。

単なる野菜の横に並ぶ「本のコーナー」ではない。
一緒に活動する“ 仲間の出版社 ” として位置づけたのだ。
それ以来、大江さんとは取引先ではなく同志となった。
同意してくれるよね、大江さん。

1996年、出版社「コモンズ」を設立してからは、
新刊が発行されるたびにチェックしてはいろいろ読んだし、
ブログでも何度か紹介 させてもらったりした。
「エビちゃんがウチの一番の読者だよ」と
言ってもらったこともある。嬉しかったね。

 

3.11の原発事故の後、2012年から始めた
放射能対策連続講座」では、福島の生産者を招いた
ディスカッションで、コーディネーターをお願いした。
逆に大江さんからは、福島の農民たちのたたかいを応援した一冊
『放射能に克つ 農の営み』用に原稿を依頼され、
一文を寄せさせていただいた。
けっこう力を入れて書いたつもりだ。

 

語り始めたら切りがない。
とにかくいろんな場面で会い、たまに一緒に無償の仕事をし、
そしてよく飲んだ。

大江さんは「いま死ぬわけにいかない」と、
闘病中も病院にパソコンを持ち込み、
最後まで仕事に向かっていたと聞かされた。
きっといっぱい出版の構想を描いていたに違いない。
やっぱり、悔しい。悔しすぎる。

出版社名「コモンズ」には、大江さんの思いが込められている。
それは、私的に独占・所有させてはならない地域資源や環境的資産を、
自治の精神に則って共同管理し、豊かに持続させていく社会の姿だ。

有機農業はその原動力になる、それが彼の確信だった。
最後の著書『有機農業のチカラ』には、彼の願いが託されている。

 

かつて地球上の至るところに存在していたコモンズは、
近代化(資本主義化)とともに姿を消していった。

いま世界を席巻する新自由主義とグローバリズムは、
そんな全ての生命にとっての共有財産を
さらに食い尽くそうとしている。
しかし、それでもいつか、欲望で奪い合う時代を乗り越えて、
“ 新たなコモンズ ” が人々の手によって再建されることを信じて、
逝ったことだろうか。。。


(2009年6月、「梓会出版文化賞」受賞を祝う宴会での一枚)

 

仲間たちが「お別れ」する間、
会場には彼の好きだったフォークソングが流れていた。

大江正章、63歳。走り抜くには早すぎる。
まだもう少し、
この列島を役行者(えんのぎょうじゃ)みたいに駆け巡り、
あるいはアジアの田園地帯あたりを漂っていてほしいと思う。

夢に描いた “ コモンズ ” をたしかめるまで-

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