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エビちゃん日記

2017/07/26
  • 食・農業・環境
奇跡の学食

朝起きて窓を開けると、セミの大合唱が飛び込んでくる。
街路樹から、近隣の林から、あっちの鎮守の杜から、
いま鳴かなくてどうする、とばかりに。
まあ、そうだよね。
数年に及ぶ土中生活から地上に出て、
短い最後の夏だ。
競い合わずにいられない。
しかも朝はクマゼミの天下で、
シャーシャーシャーシャー・・・・
上昇し始めた空気と相まって一気に暑苦しくなる。

そして仕事の疲れが見え始めた日暮れ時になると、
四方の山からヒグラシの声が木霊(こだま)してきて、
しばし癒される。

都心でもセミは鳴くけど、
ヒグラシはいないね。
こいつの声を聞くと、都会はもういいか、
と思わされる。
早や4回目となった函南の夏。
気がつけば大暑も過ぎて、さて
お前が歩いている道は大丈夫か、と自問する。。。

 

日々の仕事からもネタは浮かんでくるけど、
日常の記録やただの商品宣伝は本ブログの目的ではないし、
生々しい経営の話は他人にはつまらない自慢か
愚痴あるいは自虐ネタにオチてしまいそうだし、
昨今振り回されることも多い親会社の合併絡みの動向は
そう軽々しくは語れないし、
経営者という立場でバイアスをかけては “終わり” なので、
そういう時は更新を焦らず、
黙考もありかと思うこの頃です。

 

そこで今回は、本を2冊、紹介させていただきたい。
お付き合いのある方から、たまに本が送られてくることがある。
送り主は著者であったり、編集者であったり、
企画関係者であったり、まちまちだ。

1点目は、主人公のモデルとなった方から頂いたもの。
『ようこそ、自由の森の学食へ』
(山本謙治監修、岩田ユキ画、早川書房刊)。

埼玉県飯能市にある「自由の森学園」については
以前にも紹介したことがあって、
本書はその時に登場した管理栄養士のNさんが
主人公のモデルとなっている。
お名前は、和井田(旧姓 西垣)結佳子さん。
当時のブログは敵も多かったので
(原発関連記事には妨害投稿も日々入っていたし)、
何げに気を使ってイニシャルにしたところ、
「なんで『Nさん』なんですかぁ!」
とお叱りのメールを頂戴してしまった。
現在は大阪で、子育てに追われながら
大学院で研究員をされている。

物語は、栄養学を研究する大学院生・中垣ユイが、
研修先の病院で患者さんから食事にそっぽを向かれるという
挫折体験から始まって、
自由の森学園の学食と出会い、
感激のあまり強引にアルバイトで雇ってもらって、
悪戦苦闘を繰り返しながら、
ついに卒寮パーティでの無謀な難題に挑む、という話。
最後に生徒からもらった言葉は・・・シンプルで美しいひと言だ。

 

コミックなので、
あっという間に読み進んでしまうけど、
世間常識からすると感嘆・驚愕するような
学食の姿が描き出されている。
生産者から直送されてくる有機野菜、
自家製天然酵母パン、うどんも自家製手打ち、
無添加ハム、低温殺菌牛乳、
梅干しやピクルスなど手作りの保存食、
油は圧搾法による一番搾りの国産菜種油(当然GMフリー)、
丁寧に出汁をとった味噌汁。。。

全国から集まってくる学校なので、
寮生活の子たち向けに朝夕の食事もつくる。
アレルギー対応も含め、生徒一人一人の状態に向き合い、
手間をかけることを厭わない栄養士に調理員たち。
しかも強制せず、「食べる」笑顔を引き出す。。。
「食べるのを嫌いにさせたら 負け」-カッコよすぎる。

多種類の食品アレルギーを持つ女生徒が訴える。
「ちょっとくらい症状が出ても、
 普通のものが食べたい、みんなと同じものが食べたいの」
寄り添いながら一緒に歩むスタッフたち。
ちょっと泣ける場面もある。

「できねえよ、そんなこと」が普通の反応だろう。
そんな、「理想論」のひと言で片づけられてしまうような話が、
ここでは形になっていく。
“思い” を共有するスタッフたちの強力なチームワークと、
諦めない・厭わない姿勢に、子供たちがついてくる。
「子供たちがしっかり食べてくれたから、
 ここまで進化してこれた」
相当な苦労の積み重ねがあったんだろうと思う。
こんな学食が、現実に存在する。
奇跡の学食であり、希望の学食でもある。

 

食はいのちであり、生きることは食べること、
それは生命が誕生した時からの宿命的前提である。
人はパン(食)のみに生きるワケではないが、
食なくして生きられず、私(貴方)の体は食べたモノで作られている。
ブリア・サヴァランの名言を借りれば、こうだ。

どんなものを食べているか言ってみたまえ。
君がどんな人間であるか言い当てて見せよう。(『美味礼賛』)

ジモリの子たちは、この意味において
人生の何かをつかんでいる(つかむ機会を与えられている)。

それでも「できねえよ」というなら、
一つずつでもトライしてみてはどうだろう。
何かが変わるはずだ(僕もそうだったし)。
そんな試みが広がっていくことを願いたい。
サヴァランも言っているではないか。
国民の盛衰は その食べ方いかんによる」(同上)、と。

 

和井田(西垣)さん。
自森・食生活部の皆さんがたゆまず続けてきた
進化の軌跡が伝わってくる、とても良い本でした。
Nさんも頑張ったんですね。
有り難うございました。
ただ、軽快なテンポで描かれたコミックなので、
大事な言葉や意味をつい読み流してしまいます。
2回目はじっくりと読む、が必要な漫画でした。

ヤマケン(監修者)へ。
登場人物の「野倉大地」に自分を投影させたね。
君はシアワセ者だ、本当に。
感謝を忘れず、食の道を極めてください。

 

2点目は次回に。
震災後の、農業の復興に並走する、
なぜかあまり知られてない人たちの話です。

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