3年ぶりの「堰さらい」で憂うこの国の姿

公開日: : 最終更新日:2019/05/25 あんしんはしんどい日記, 生産者・産地情報, 米プロジェクト21

3年ぶりに帰ってきた。
「帰ってきた」とはおこがましいか。
以前だって年に1~2回しか訪ねて来なかった場所である。
でも、気分は「帰ってきたぞ~」なのだ。

福島県喜多方市山都町、本木集落。

豪雪地帯で知られる会津地方だが、
長老ですら「記憶にない」というくらい、
今年は雪が少なかった。
標高2千mの霊峰・飯豊(いいで)山系の上のほうに残る程度だ。

「(田畑への)水が心配ですね」
「いや、こういう年に限って夏が長雨になったりするんだ」
「日照りのあとに豪雨とか・・」(乾燥した土が流される)
そんな会話にも現実味が込められている。

滔々と流れる一ノ戸川。

今はまだ飯豊山系からの雪解け水の量も多い。
その水を運んで南に下り、阿賀川に合流して会津盆地を潤す。
阿賀川は栃木との県境にある荒海山が源で、
尾瀬を源とする只見川と合流し、そこから
日本海(新潟)に向かう水流は阿賀野川となる。

福島・新潟・山形三県の県境に聳える飯豊山と
群馬・福島の県境にある尾瀬ヶ原は川でつながって、
広範囲な人々の暮らしと、国土を守ってきた。
水資源大国(=洪水大国)でもある日本という国は、
水と上手に付き合う知恵や技術が土台となって
営まれ、栄えてきた。

 

ここ本木地区から2㎞くらい北にある早稲谷地区に
1996年に新規就農した浅見彰宏さんが、
麓の水田を潤す上流水路の大切さと、その水路が
地元住民たちの無償の協働作業によって
補修・維持され続けてきたことに気づき、
年々高齢化する働き手をカバーするために
ボランティアを募ったのが2000年のこと。

本木上堰(もときうわぜき)と呼ばれるその水路は
江戸時代中期に掘られたものだ。
ほとんど水平ではないかと思わせる水路が、
なだらかに水を温ませながら下っていく。
それは現代の専門家から見ても高度な土木技術だと
言われている。

この本木・早稲谷地区で毎年5月4日に行われる
「総人足」と呼ぶ全戸総出での堰の補修・清掃作業に、
各地からボランティアが参加するようになって20年。
すっかり定着した、というより
今ではなくてはならない存在になっている。

僕は3年ぶり10回目の参加。
冬は大和川酒造店の蔵人として働いていた浅見さんから
堰さらいの話を聞かされ、参加を約束したのが2007年。
以来8年参加するも、勤務地が替わったことで連続出場は途絶え、
今回が10回目となる。
甲子園みたいに「帰ってきたぞ」という気分になるのも、
どうかお許し願いたい。

 

5月3日、前日に到着した参加者一行は、
まずは温泉「いいでの湯」に入り、スッキリしたところで
オリエンテーションを受ける。
20回目という節目の年で、大勢集まるかと思ったが、
超大型連休のせいか意外と少なく、30人くらいだった。

レクチャーするのは「本木・早稲谷 堰と里山を守る会」事務局長、
大友治さん。彼も都会からの入植者だ。

今回はリピーターがほとんどだったからか、
大友さんは作業の説明も簡単に済ませ、
ずっと撮りためてきた山都の
美しい四季の映像を流してくれた。
音楽やテロップも上手に入れて、立派な作品になっている。

まさに「美しい日本」がここにある。
人が適度に手入れ(自然を撹乱)することによって
生態系の多様性は高まり(中規模撹乱説という)、
単一色ではない、暖かく美しい風景がつくられていく。
その基盤が今、坂道を転げ落ちるように衰えていってる。
それはだんだんと減って静かにゼロになるのではなく、
あるボーダーラインを切ったところで一気に消滅する。
たとえば水路が維持できなくなった時、など。
国土が荒れると下流も被害を受ける。
この代償は税金では賄いきれない。。。

今年も何名かの農家が引退した。
「2~3年で一気に田んぼがなくなるかもしれない」と、
大友さんは憂いている。
そして何としても堰を守り続けたいと・・・

 

オリエンテーションを終えると、楽しい前夜祭となる。
山の幸がふんだんと振る舞われ、なんとも言えない
シアワセ感が漂う。こんな宴席、そうはない。
大地を守る会から今年も「種蒔人」をカンパさせていただき、
懐かしい方々と大いに酌み交わす。
ただやっぱり10年前に比べ、
地元農家が減ってきているのがはっきりと分かる。

翌朝は6時から朝食の準備をし、みんなで食べ、
いよいよ堰さらいの開始となる。
作業は上流から下る班と下流から上る班に分かれる。
僕は上流からの早稲谷班に配属される。

川から水を引き入れる堰の入り口(写真右手)から、
作業のスタート。

下流からの班と合流するまで、終われない。
ひたすら土砂や落ち葉を浚いながら進んでいく。
さいわい雪が少なかったぶん、
崩落したり傷んだ個所はほとんどなく、
例年より楽に思えた。
それが良いことなのかどうか、よく分からないが・・・

勢いよく流れてくる沢にも出遭ったりする。
この水が実にウマい!
山のミネラルを運び、美味しい米を育てる生命の源。
これはゼッタイに守らなければならない。

「美しいニッポン」とか口先では語りつつ、
目先の経済優先でホンモノの資源の在り処を忘れた
政治家にこそ、こういう作業を義務づけるべきだ。

いや待て。「経済」という言葉も元々は
「世を治めて民を救う」(経世済民)という意味だった
ワケだから、「経済優先」自体は悪ではない。
「民を救う」を忘れて、もっぱら我田引水を競い合う自由
(結果としての経済格差)がまかり通っていることが
問題なのだ。
この協働作業こそ、本来の「経済」行為だと言えないか・・・

とかなんとか考えたり思ったりしながらも、
いつの間にか何も考えなくなって、
無我の境地で体を動かし続けるようになる。

 

午後3時前、無事下流組と出会い、作業終了。
山を下り、早稲谷公民館の駐車場にブルーシートを広げ、
豚汁とビールでお疲れさん会。
そして「いいでの湯」に浸かって、夜は交流会となる。
山菜や浅見さんが育てた豚肉に舌鼓を打ちながら、
写真を撮るのも忘れて飲み語り合う、贅沢なひと時。

心地良い疲労感で寝袋に潜って・・眠りこける前に思った。

社会的共通資本が無償の協働で守られている。
こういうコトにこそ、
ふるさと納税は使われるべきではないだろうか。
私の税金のいくばくかをそのコトに回したら、
相応のお礼としてそこで獲れたお米が届けられる。
経済の循環にもつながっていくような気がするのだが。

「農は国の大本」という言葉があるけど、
水田稲作の発達とともに張り巡らされてきた水路は約40万㎞。
なんと地球10周分である。
日本の水利施設の資産価値は25兆円とも言われる。
これこそ世界遺産だと誇るべきものだ。
それが今では、滋賀県の面積に匹敵する農地が放棄されてしまった。

「21世紀は水の(奪い合いの)世紀になる」と
国連が警鐘を鳴らしている。
この列島を支えてきた民間水利(土木)技術を、
土砂に埋まらせてはならない。

浅見さん、
「ふるさと納税」の活用、いかがですか。
制度そのものの建て付けを直さないと邪道だ!
と言われるか・・・

迷いながら帰ってきたのだった。

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