「加工」は人類を進化させ、しかし退化もさせる。

公開日: : 最終更新日:2015/01/25 かんなみ百景, 日々日々フルーツバスケット

通勤途中にある、丘の上の畑。
夏にはデントコーン(飼料用トウモロコシ)が茂っていた。
この写真は10月中旬に撮ったもの。
ソバの花が満開だった。

20141026ソバ畑

デントコーンと牧草の連作なら聞いたことがあるが、
ソバとの連作がよいのかどうかは、自分にはよく分からない。
秋ソバの栽培期間は3ヶ月くらいだから、
冬までの残った期間と肥料分で一作つくっておこうという
経営計画なのかもしれない。

しかしソバは売り先が決まってないと播けないよね。
地蕎麦として買い取ってくれる相手がいるんだろうか。
それともただ業者に売り渡すだけか。

毎日のように眺めていると、このソバを食べてみたくもなる。
美味いか不味いかは、とりあえずどっちでもいい。
なんだろう。
この地で何かを作り続ける農民の思いを
ただ知りたいと思う気持ちが、
「食べてみたい」と言わせているような感じだけど。

20141026ソバ畑②

 

20141026ソバ畑③

僕らがお蕎麦としていただくには、
ここから実が成って、収穫して、脱穀して、選別して、製粉、
そして製麺(あるいは蕎麦打ち)、という工程をたどる。
農家は選別までやり終えて業者に売り渡すのが通例だろう。
ソバの反収(10aあたり収穫量)はだいたい2俵弱(ソバの1俵は45㎏)
くらいだから、ちょっとした副収入程度にしかならない。
しかも値段を決めるのは生産者ではないというのが、
一般流通における農産物の哀しい現実である。
(有機農業運動には、生産者の再生産を保証するという思想が根本にある。)

それでも農家が作るのは、
年間通していくつかの作物を栽培することで
その畑での目標収入を確保しようという経営計画と、
輪作することで土壌のバランスを保ち、
メインの作物の品質(+価格)を守るためである。
しかしメイン作物で経営が成り立たなくなったら、
裏作の作物も消える。
上の写真の畑で言えば、丹那で酪農が消えれば、
ここのソバの花(=美味い蕎麦の何枚か)も消えることになる。
安全で美味しい牛乳を維持することで、地場産蕎麦も食べられる。
というような構造があることを、この畑を見ながら思うのである。
生産者に会ったこともない畑の前で・・・

いま、その構造が加速度的スピードで崩壊していってる。
コメの価格は暴落しているし、
乳製品ではバターが国内で消えつつある。
バターは乳製品の最終ランナーみたいなもので、
バターを量産するには牛乳の生産量が増えなければならない。
しかし高齢化と乳価の低迷、加えてTPP交渉への不安からか、
乳量(=牛の頭数)を増やそうとする酪農家は少ない。
たたかう農民はいないわけではないが。

事は農家だけの問題ではなく、
畑(あるいは山や海)から食卓(あるいは食堂のテーブル、公園のベンチ)
までをつなぐすべてのポジションで、
自らの社会的責任を問うべき時代に入っているのだけれど、
お金(お値段)という価値の尺度はあまりにも強大で、
どこを切り取ってもこの縛りがついて回る。
「当たり前だろ」と言われればそれまで(勝負あり)! くらいに。

しかし私は思うのである(襟を正すと、僕は突然 “ 私 ” になる)。
市場(価格)競争に浸っているだけでは、
人に「健康」は与えられない。おそらく「幸せ」や「喜び」も。
つながりのなかで本当の価値を伝え、広げる役割を持つ者が必要だ。

そこで重要なキーマンの一人が「加工」であることは間違いない。
「加工」はすべての食について回る。
ご飯だってそうである。
殻に包まれた固いイネの実を食べられる状態にする、
その技術が獲得されることで稲作は発展した。
小麦をパンという食品に姿を変えさせるのも「加工」技術だ。
加工技術によって人類は進化したとも言える。

切る、混ぜる、加熱する、干す、漬ける、醗酵させる・・・
体を壊さず、安心して食べる形にするためのプロセス(保存も含めて)、
それが広い意味での「加工」だと僕は理解している。

「加工」はそういった意味で、
生産にも消費にも、提案者の立場に立つことができる。
いわば食のイノベーションを起こせる場所にいるわけで、
ただ原材料を違うモノに変えて付加価値をせしめるだけが仕事ではない。

生産者の経済を支えつつ消費者の健康(いのち)を守る、
その位置にあるべき者が、
モノが動く(トレードされる)プロセスに深く介在しながら、
何を得るかだけに執着してはならない。
何を与えるか、どんな価値を創り出すかに
動機の根源を据える必要がある。
価格だけでない、そこを乗り越え、あるいは突き抜け、
あるいは包摂して、価値を作り出す「加工」の世界を、
僕らは取り戻さなければならない。

生産と消費の関係がうまくいかないのは、
加工の世界が病んでいるからではないか、
とさえ思わされることが、こんにち、やたら多い。
「加工」で人類は発展してきた。
しかし今や退化にも貢献しているみたいだ。
いや、人が加工というプロセスをあまりにもアウトソーシング
(他人任せに)してしまったことが原因か。

もちろん健全な経営者や技術者は数多くいて、
僕らはその人たちに支えられている。
ここ(FB)に来た以上、僕もその人たちの列に並べるよう、
我が「加工屋」論を確立させなければならない。

私の「農産加工論」に挑戦したい。
それは農と食のあるべき姿にも重なっていくはずだ。
少しずつでも書き出すことから始めてみようかと思う。
丘の上のソバ畑が消えたりしないうちに。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

写真集の反響続く

5月16日(火)、 日本農業新聞に小林芳正さんの写真集の記事が掲載さ

源流の叫び……

堰さらいを終えた翌5月5日(金)。 現地に来るまでは、この日は早

「堰さらい」という協同作業から考える。

5月4日、ゴールデンウィークも後半戦に入る。 コロナはまだ収束し

4年ぶりの「堰さらい」は、厳しい災害復旧となる。

故人を偲ぶ話もこれくらいにしたいと思っていたら、 ゴールデンウィーク

つや子さんの思い出

4月の記録-その2。 このところ訃報がらみの記事が多くて心苦しい

→もっと見る

  • 2023年6月
    « 5月    
     1234
    567891011
    12131415161718
    19202122232425
    2627282930  
箱根峠 酪農王国オラッチェ 羽山園芸組合 桃ジャム 大地を守る会 丹那盆地 あかね 震災復興 COBOウエダ家 森は海の恋人 畠山重篤さん 畑が見える野菜ジュース 種蒔人 久津間紀道さん 谷川俊太郎 藻谷浩介さん カフェ麦わらぼうし 自然エネルギー ジェイラップ 備蓄米 稲田稲作研究会 ムーラン・ナ・ヴァン 無添加ジャム 丹那トンネル 丹那牛乳 ご当地エネルギー協会 フルーツバスケット 函南町 福島屋さん 川里賢太郎さん
PAGE TOP ↑